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広島高等裁判所 昭和48年(う)115号 判決 1975年12月26日

本籍

大阪府茨木市西河原一丁目四一一番地

住居

広島県呉市焼山町六八五番地の七〇

医師

木村繁

大正四年八月一九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和四八年三月二九日広島地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があつたので、当裁判所は検察官杉本欽也出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人星野民雄作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官杉本欽也作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

控訴趣意に対する当裁判所の判断は次のとおりである。

控訴趣意(一)(訴訟手続の法令違反の主張)について

論旨は要するに、弁護人は原審公判廷において、<1>昭和四〇年度および昭和四一年度の青色申告にかかる本件所得税の確定申告書は、いずれも関与税理士である河合健造が作成提出したもので、その責任は右関与税理士にあり、本件に関し被告人には本件所得税につき逋脱の責任がないこと。<2>被告人は、税務当局から要求されて右両年度のみならず、本件に関係のない過年度の昭和三七年度ないし昭和三九年度の分についても、各所得につきいずれも修正申告書を提出させられ合計四、三八〇万円余を納付しており、このことは刑の減免事由となり得るものであること、をそれぞれ指摘して主張したのに拘らず、弁護人の右各主張に対しなんら判断を示さなかつた原判決は刑事訴訟法三三五条二項に違背する違法がある、というのである。

しかしながら、刑事訴訟法三三五条二項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」とは、犯罪構成要件に該当する事実以外の事実であつて、法が特に犯罪の成立を阻却すべきものと規定した事実をいうのであり、同項にいう「法律上刑の加重減免の理由となる事実」とは、法律上刑の必要的加重減免の理由となる事実として規定されたものをいうのであつて、右所論<1><2>の主張がこれらに該当しないことは明らかであるから、原判決が弁護人の右各主張につき特に判断を示さなかつたことに所論のような訴訟手続の法令違反は存しない。論旨は理由がない。

同(二)、(三)の一(事実誤認、審理不尽、法令適用の誤りの主張)について

論旨は要するに、被告人は、本件に関し逋脱の犯意もなければ、妻杏子と逋脱犯行の共謀を遂げた事実もないのに、これらの点をいずれも積極に認定し、共謀による共同正犯の成立を認めた原判決には、事実の誤認、審理不尽、法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。

しかし、原判決の挙示する各関係証拠によれば、原判示第一、第二の各事実は所論の犯意と共謀の点を含め優にこれを肯認することができ、所論にかんがみ記録並びに証拠物を精査し、当審における事実取調の結果を参酌して検討してみても、原判決には所論のような誤りの点は認められない。以下所論のいう犯意および共謀の点に関する証拠関係を検討してみるに、原判決挙示の証拠ことに原審証人木村杏子、同神垣ツヤ子の各証言、野吹敦子(昭和四三年二月二二日付、同年六月二一日付)、吉原敏人、長橋直茂の大蔵事務官に対する各質問てん末書、木村杏子の検察官に対する昭和四四年一月二七日付、同年二月一日付、同月六日付、同月一〇日付、同月一二日付各供述調書、被告人の大蔵事務官に対する昭和四三年二月二一日付、同年六月二一日付各質問てん末書、検察官に対する昭和四四年一月二七日付、同月二八日付各供述調書、被告人の原審公判延における供述などによると、

<1>  被告人は眼科を専門とする医師で昭和二三年頃から呉市内で医院を開業し、昭和三六年頃鉄筋二階建(総面積約一二〇坪)の診療施設を新築したのを機会に病院組織に改め、昭和三七年以降木村眼科病院として個人で医業を営んでいたこと

<2>  被告人は右病院の経営者ではあるが、右医療事業の経理面やその収益の管理などについては従前から妻の木村杏子に委ね、同女において、日々病院の窓口を通してあがる現金収入を窓口係事務員野吹敦子らから受領して管理するほか、主だつた経費の支払にも関与し、収益の一切を管理していたこと

<3>  右杏子は、前記病院新築後、償却資産その他の面で青色申告制度を利用した方が税制上有利であるとする税務署のすすめもあつて、被告人と相談のうえで従前の白色申告を昭和三七年以降所轄税務署長の承認を得て青色申告に切り換え、以後昭和四三年二月の本件査察により税務当局から青色申告の承認を取り消されるまで、青色申告の方法で被告人の所得の申告にあたつていたこと

<4>  右のように被告人の事業の収益管理にあたつていた杏子は、医師のうける社会保険診療報酬について従前の白色申告でも一〇〇分の七二の率で経費控除が認められている関係上、青色申告に切り換えるのを機会に右以上の利益を享受する方法で申告をしなければ損になると考え、そのためには、収入金の一部を除外したり、経費の水増しをするなどの方法を講じて所得を秘匿するほかないものとし、以後右のような方法で被告人の所得について実際の所得より少ない所得申告をし、昭和四〇年および昭和四一年度の本件各事業年度における被告人の所得申告についても、自由診療の一部、コンタクトレンズの売上収入の全部等の除外ならびに経費の水増し計上等の方法で真実の所得を秘匿し、被告人の所得に関し虚偽過少の申告をしたものであること

<5>  一方、被告人は、医療機器の購入、薬品類の注文等については自らその衝にあたり、あるいは看護婦、事務員に指示を与えるなどしていたほか医療に専念し、病院の経理面については概ね右杏子にあたらせていたが、自已の病院経営による収益に全く無頓着であつたなどとは考えられないばかりでなく、一ケ月に一度あるいは二ケ月に一度位の割で杏子に収支を問いただしたり、盆や年末の従業員に対するボーナス支給時期には関与税理士の事務員から収支の概要を聴取し、また、年度末の所得の確定申告をする前には右税理事務員の計算にかかる収支の決算書を見るなどして、他の同業者との所得の申告状況の比較をしたりしていたこと

<7>  右のほか、被告人は、自宅に他人名の印鑑が保管されていることなどから、杏子が被告人の所得を秘匿するために偽名預金をしていることの認識を有し、自已の財産や所得がおよそどれ位あるかということについても、同女から概略を聞かされて知つており、また、本件名事業年度に限つてみても、被告人は、日々の現金収入を記帳せずに落していることを同女から聞かされており、現金収入となるもののうち自由診療収入についてはその一部を、コンタクトレンズの売上収入(杏子の原審第六回公判の証言と証1.2.の家計簿によれば、本件各事業年度ともおよそ三〇〇万円程度であつたことが認められる)については、同女が秋本眼科の仮名を使用して取引していることを知悉していて、同女がこれらの収入を秘匿したうえ、課税対象となるべき所得から除外していることの認識をもつていたこと

<7>  本件各事業年度の所得税の確定申告書は、前記税理事務員が病院関係の諸帳簿のはか杏子から提出されたメモ書き等の資料をもとに作成し、納税義務者欄の被告人の氏名も右税務事務員の代筆になるもので、その名下の印は杏子が自ら保管する印を押捺して完成させ、これを前記税理士を通じて所轄税務署へ提出したものであつて、被告人自身右確定申告書の記載内容を遂一確認しておらず、ただ税額が幾ら位になるかといつた点を確める程度に終つたが、右は、自已の所得申告について収益の管理ともどもすべてを杏子に一任し、同女に委ねていたがためであつて、被告人も、右両年度の所得税の確定申告にあたり所得の全部をありのまま申告しているものとは思つていなかつたのはもとより、額は知らなくとも虚偽過少の申告をしていたことの認識は十分あつたこと

の各事実が認められる。原審および当審証人木村杏子の証言並びに被告人の原審および当審公判における供述中右認定に反する部分は、前掲他の証拠と対比して措信することができない。

右にみたところによれば、被告人の右各事業年度における所得の秘匿および所得税の逋脱に関して、被告人は直接自ら手を加えてこれに関与したものではなく、あくまで被告人の収益を管理する杏子の裁量にもとづいて行われたものであるが、反面、右のように同女の裁量に任せたのは被告人自身であつて、同女が前記のように自由診療の一部、コンタクトレンズの売上収入の全部を簿外にするなどして所得を秘匿し、被告人の所得につき実際の所得より過少の所得申告書を所轄税務署に提出することを認識を有していたものと認められるだけでなく、被告人の経営する医療事業からあがる収益の拡大および管理の点では、両者は利害を共通にする一身同体の関係にあり、所得税の逋脱という面からみても、被告人は、単に同女の前記のような不正手段を容認していたというにとどまらず、同女の行為を通じて逋脱による自已の利益を享受しようとする積適的な意思を有していたものと認めるのが相当であつて、帰するところ、被告人と杏子との間には暗黙の裡に所得逋脱の意思連絡が存在しただけでなく、本件は共謀者が一体となつて共同意思のもとに犯罪を実行したものと認めることができるから、本件被告人につき所論のいう共謀による共同正犯を認めるに十分である。

所論は、原判決が本件に関し、被告人と杏子の共謀にかかる逋脱行為であることの説明として、「被告人の逋脱犯としての責任について」と題し判示するもののうち(二)、(四)、(五)、(七)についてこれを非難するが、記録並びに証拠物を精査し、当審における事実取調の結果にもとづき検討してみても、原判決には所論のような事実の誤認ないし審理不尽の違法は認められない。

してみると、原判決が本件に関し、被告人に対して杏子と共謀による逋脱犯の成立を認めたのは相当であつて、原判決には、所論のような事実の誤認、審理不尽はなく、また、法令の解釈適用の誤りも存しない。論旨は理由がない。

同(三)の二(法令適用の誤りの主張)について

論旨は、被告人の本件各事業年度における所得のうち社会保険診療報酬にかかる事業所得については、経費率を七二パーセントとする租税特別措置法(以下措置法という)二六条一項を適用して所得計算をすべきであるのに、同条項の適用をしないで所得計算をした原判決は、右事業所得の算定に関する法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。

しかし、右措置法二六条の規定は、同条一項に規定する社会保険診療報酬等につき所得税法に定める必要経費の算定に関する特例を定めて、納税者に対し両者のいずれに準拠して必要経費を算定するかの選択の自由を与える一方、確定申告書に措置法二六条一項により事業所得の金額を計算した旨の記載がない場合には、必要経費に算入する金額を社会保険診療報酬等の一〇〇分の七二と定める同項の適用を受けることができないとするものであるところ、被告人の本件各事業年度における所得税の確定申告にあつては、原判決も説示するように、右各確定申告書に同法二六条一項の規定による事業所得の計算をした旨の記載がないから、同条二項により同条一項の経費率一〇〇分の七二を適用する余地は存しないものといわねばならない。

この点に関し所論は、被告人のうける社会保険診療報酬について同法二七条所定の源泉徴収税率(五パーセント)が適用される以上、その所得金額の計算上必要経費に算入する金額は当然に同法二六条一項の適用があると主張するのであるが、同法二七条は、同法二六条一項に規定する医業又は歯科医業を営む個人が受ける社会保険診療報酬等につき、同項に規定する所得計算の特例の適用をうける場合であると否とに拘らず、その源泉徴収税率を軽減することを定めた規定(所得税法二〇五条の特別規定)であつて、措置法二六条と二七条とでは規定の対象を異にしており、両者は所論のいうように不可分な適用関係にあるものではないから、被告人の受ける社会保険診療報酬につき同法二七条の源泉徴収税率が適用されることから、直ちに必要経費の算入に関する同法二六条一項の所得計算の特例の適用があるものとすることはできない。従つて、原判決が被告人の所得計算に関し前記措置法二六条一項の適用を排斥したのは相当であつて、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。

(因みに、原判決は本件に関し、青色申告承認取消に伴ういわゆる増差税額を逋脱税額から除外しているが、青色申告の承認を受けた被告人が本件各事業年度において所得税を免れるため逋脱行為をなし、その後右事業年度にさかのぼつてその承認を取り消された場合におけるその事業年度の逋脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した所得税額から申告にかかる所得税額を差しひいた額であると解するのが相当である(最高裁判所昭和四九年九月二〇日第二小法延判決-刑集二八巻六号二九一頁以下参照)から、右増差税額を逋脱税額に算入しなかつた原判決は、青色申告の承認取消しにより減算されることとなる専従者給与額、すなわち昭和四〇年度分六万円および昭和四一年度分八万二、五〇〇円の増加所得について、前者につき三万六、〇〇〇円、後者につき四万九、五〇〇円の限度で、右両年度の逋脱税額の計算を誤つており、また、原判決が昭和四〇年度および昭和四一年度の所得確定の内訳として掲げた原判決添付の別表第一、第二の各修正損益計算書を調査すると、別表第一の修正損益計算書中支出の部の差引修正金額欄の事務消耗品費について、「三〇万八、三八八円」とすべきところを「三〇万八、三三八円」とした誤計算があり(差額五〇円)、その結果、収入の部の当期増減金額、差引修正金額欄の事業所得ならびに支出の部の当期増減金額欄、差引修正金額欄の総所得金額がいずれも五〇円宛減少し、昭和四〇年度において逋脱税額が八〇円減少する反面、別表第二の修正損益計算書中支出の部の差引修正金額欄の減価償却費(建物以外)につき「一一七万六、一一八円」とあるのは「一一七万六、一八八円」、同じく同欄の図書費につき「八万八、八五〇円」とあるのは「八万八、五五〇円」の誤記と認められ、支出の部の公表金額欄の研究費につき「六七万五、一〇〇円」の遺税があり、同じく同欄の雇人費につき「六〇九万一、九四九円」とあるのは「六〇九万一、九四七円」の誤記と認められ、以上の誤差の結果、収入の部の当期増減金額欄、差引修正金額欄の事業所得ならびに支出の部の当期増減金額欄、差引修正金額欄の総所得金額について、いずれも二三〇円宛増加し、昭和四一年度において逋脱税額が一二〇円増加することとなり、この点でも原判決は誤記、誤計算に基因する逋脱税額の計算を誤つているが、原判決の認定した本件各事業年度における被告人の逋脱金額に比し、前記の各税額計算による誤差は比較的少額であるから、原判決の右の点に関する誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかな誤りということはできない。)

同(四)(量刑不当の主張)について

論旨は原判決の量刑不当を主張するものである。

所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌して案ずるに、本件は、医業を営む被告人がその経理をつかさどる妻杏子と共謀のうえ、売上収入の除外、経費の水増し等の不正手段を講じて真実の所得金額を秘匿し、昭和四〇年および昭和四一年中における各所得につきいずれも虚偽過少の申告をして、昭和四〇年度分について九三万円余の、昭和四一年度分について九四万円余の各所得税を逋脱した事案であつて、右にみた各犯行の罪質、動機、熊様、共犯者間の役割、逋脱税額のほか、この種事犯が国の財政(租税収入の確保)に及ぼす影響などの事情に照らすと、被告人の刑責には軽視し難いものがあり、原判決の量刑も首肯し得ないではない。

しかしながら、ひるがえつて情状を仔細に検討してみると、本件に関しては、前記杏子との共謀による被告人の刑事責任は否定し得ないものであるが、所得税を免れるために前記の不正手段を講じたのはすべて杏子であつて、虚偽過少の確定申告書の提出も主として同女の関与により行われ、被告人自身同女に対し積極的に指図するなどの行為に出ておらず、本件における逋脱の加担程度はあくまで従的なものであり、逋脱の責任の大半は同女にあると云つても過言でなく、また、逋脱税額の点についても、外形上は前記のような高額にのぼつているが、右は、医師のうける社会保険診療報酬につき措置法二六条一項の必要経費率一〇〇分の七二の適用をうけないものとして所得計算をしたことも一因をなしており、試みに被告人が同条の適用を明示して所得申告をしていたとして所得計算をした場合、その逋脱税額は、別紙計算書(一)、(二)のとおり昭和四〇年度分が三一八万八、五〇〇円昭和四一年度分が三七四万五〇〇円となつて、大輻に縮少される関係にあることが認められ、他方被告人は、本件各事業年度の所得税につき修正申告の方法で逋脱分をすべて納付したほか重加算税等も納付し、そのうえ査察年度前の昭和三七年度ないし昭和三九年度分の各所得税についても、さかのぼつて修正申告による追納をしている事実も認められ、以上の点は被告人の刑責を評価するうえで犯情として十分斟酌されるべき事情というべく、その他記録上認められる被告人の経歴、地位等各般の情状をあわせ考慮すると、被告人に対し懲役刑と罰金刑を併科した原判決の量刑は重きに失するものと認められる。論旨はこの点において理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により直ちに判決することとし、原判決の認定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項前段、刑法六〇条に該当するので、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪の関係にあるので、同法四八条二項により所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告人を罰金四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木直道 裁判官 丸山明 裁判官 岡田勝一郎)

計算書(一)(昭和40年分)

 社会保険診療報酬が総収入に占める割合

40,713,282円÷48,593,942円=0.8378…(83.78%)

 必要経費の総計

5,935,987円(仕入原価)+9,645,807円(一般経費)+6,620,214円(特別経費)+112,500円(専従者給与)=22,314,508円

 総経費に占める社会保険診療報酬経費

22,314,508円()×0.8378()=18,695,095円

 租税特別措置法26条1項適用による必要経費

40,713,282円×0.72=29,313,563円

 租税特別措置法26条1項による必要経費と上記社会保険診療報酬経費との差額

29,313,563円()-18,695,095円()=10,618,468円

 再計算所得

(26,836,882円+60,000円)-10,618,468円()=16,278,414円

 課税所得

16,278,414円()-454,100円(所得控除分)=15,824,300円

 算出税額

<省略>

 差引所得税額

7,351,300円()-27,726円(配当控除分)=7,323,574円

 差引納付税額

7,323,574円()-1,283,950円(源泉徴収税額)=6,039,624円

 逋脱税額

6,039,624円()-2,851,050円(申告納税額)=3,188500円(100円未満切捨)

計算書(二)(昭和41年分)

 社会保険診療報酬が総収入に占める割合

39,927,919円÷46,966,719円=0.8501

 必要経費の総額

5,171,111円(仕入原価)+8,985,796円(一般経費)+7,761,851円(特別経費)+142,500円(専従者給与)=22,061,258円

 総経費に占める社会保険診療報酬経費

22,061,258円()×0.8501()=18,754,275円

 租税特別措置法26条1項適用による必要経費

39,927,919円×0.72=28,748,102円

 租税特別措置法26条1項による必要経費と上記社会保険診療報酬経費との差額

28,748,102円()-18,754,275円()=9,993,827円

 再計算所得

(25,513,495円+82,500円)-9,993,827円()=15,602,169円

計算書(二)(昭和41年分)

 課税所得

15,602,169円()-472,200円(所得控除分)=15,129,900円

 算出税額

<省略>

 差引所得税額

6,909,000円()-25,191円(配当控除分)=6,883,809円

 差引納付額

6,883,809円()-1,230,363円(源泉徴収税額)=5,653,446円

 逋脱税額

5,653,446円()-1,913,030円(申告納税額)=3,740,400円(100円未満切捨)

控訴趣意書

昭和四八年(う)第二五号い

被告人 木村繁

右の者に対する所得税法違反被告事件について左のとおり控訴趣意書を提出いたします

昭和四八年六月一八日

弁護人 星野民雄

広島高等裁判所第一部御中

(一) 訴訟手続の法令違反

一、弁護人は原審において弁論要旨二、(関与税理士の職責及び、その職務内容)に於て税理士法第一条、税理士法基本通達により本件青色申告書の作成提出の責任は関与税理士の責任であり、被告人には責任がない旨、ならびに同弁論要旨三、4(結論)(C)に於て本件青色申告書の作成ならびに提出者は関与税理士である旨主張した。

二、弁護人は、原審弁論要旨五、(情状論)に於て本件起訴事実に関係のない昭和三七、三八、三九年度の確定申告書について何ら調査せず、単なる目分量にて妻杏子に無理強いして修正申告書を提出させ、一四、七五九、二〇〇円を納付させ、これに本件昭和四〇、四一年度の修正申告分を加えると、合計四三、八〇七、一〇〇円を納付させていることを述べ刑の加重、減免の事由として陳述している。

三、しかるに原判決は、右二点について判断を示していないのは刑事訴訟法第三三五条第二項の違反である。

(二) 事実誤認、審理不尽

一、「本件脱税の発端となつた昭和三七年に病院を新築した際の借入金ができたことから収入を増やす必要にせまられたものである」と認定した。

この認定が、被告入を有罪とした大前提と考えられる

しかるに、原審に於ては病院の建築費、借入金、被告人の手持資金、預金高等、詳細に審理してこそ「収入を増やす必要にせまられたものである」や否やを判示すべきに、かかる審理はなされていない。

二、医療器械、薬品の購入を被告人が直接したり事務員等に指示した事実は経理全部を妻杏子に委ねていたことと何ら矛盾しない。

しかも病院の経理を妻に委ねていたことは原審の認定しているところである。

三、偽名預金のあることを被告人が認識していたと認定しているが「偽名預金もあるだろう」ということを知つていたというのか、「偽名予金の詳細」を知つていたというのか不明であるが、偽名預金は所得税ほ脱と何ら関係はない、(分 課税であるから)

四、確定申告時に税理士事務員や妻より決算書の内容、税額など聞かされていると認定しているが、税額については被告人がきいているが、その内容については聞いた事実なく、また、これを認める証拠も存しない。

(三) 法令適用の誤り

一、原審は被告人と木村杏子との間に共謀共同正犯が成立すると認定した、原審の弁論要旨に詳述したとおり、共同正犯は、共謀者が一体となつて共同意思のもとに犯意を実行するものでなければならない。

原審は、被告人と杏子とは夫婦であるという点に重きをおき本件において、ほ脱の正確なる数額について、被告人が認識していたとは認められないが、ほ脱犯の成立に関しては、具体的ほ脱行為および、ほ脱規模の概要を認識すれば足りると判示している。

本件に於て具体的ほ脱行為とは、いかなる行為をいうのか、ほ脱規模とは、いかなる事実をいうのか、不明であるが、共同正犯の成立しないことは明らかである。

原審の判示によれば、ほ脱行為の実行者は、妻杏子であるとしながらもほ脱意思の連絡は、どちらから、いかにしてなされたかは判示していない、何れにしても、共同正犯と認定したことは明らかに法令違反である。

二、原判決は租税特別措置法第二七条の解釈を誤つている。

同条は同法第二六条をうけた規定で、同条の特例をうける個人に対する規定である。

原審は「両法条はその趣旨目的を異にし」と判示しているが、その然らざることは、立法趣旨よりして明らかである。即ち第二六条の特例をうける個人に対し更に第二七条の恩典を与えたものであつて、第二六条の特例をうけない個人までに恩典を与えたものではない、従つて法令第二七条を適用される個人は当然法第二六条の適用ありというべきである。

(四) 量定不当

1、仮に被告人が有罪であつたとしても、原審の判決は余りにも重きに失する。

2、原審弁論要旨四、で詳細に述べたとおり租税特別措置法第二六条の適用ありとして(同法第二項の記載をしなかつたのは関与税理士の過失である)計算すれば昭和四〇年度の税額において三、三〇一、一五〇円、同四一年度は三、五五一、七七〇円だけ、ほ脱したこととなり、これに対し被告人は

昭和四〇年度は一六、〇六一、五〇〇円

昭和四一年度は一二、九八六、四〇〇円

を修正申告と同時に納付している。

3、さらに本趣意書(一)、二で述べたとおり、昭和三七、三八、三九年度の無調査による修正申告分の税額

一四、七五九、二〇〇円を納付している。

4、叙上の次第であるので徴税官としては、被告人に対し完全に目的を達しているものでこれに対し過酷なる刑罰を科する必要は存しない。

尚、本件以後は当弁護人の税理事務所に於て被告人の経理事務を指導し、白色申告にて確定申告書を提出しているが、管轄税務署より更正を受けた事実はない。

以上